科学基礎論学会は4月15日、ジャーナル「科学基礎論研究」にて、論文「メタバースは解放をもたらすか?―改善論の立場から―」を公開した。
本論文は、様々なVTuber、メタバース住人、研究者の著作、論文に加え、VTuber四天王によるインタビュー記事やジェンダー分野の学術賞を受賞した論文など、多岐にわたる参考文献に基づいて、「メタバースにおける現実社会からの開放」について楽観論と悲観論の両面から多角的に分析し、メタバースの利用をより良いものへと再設計するための改良主義的な提案がされている。メタバースが抱える課題を明らかにし、その改善に向けた具体的な道筋を示すことで、今後のメタバースの健全な発展に貢献することが期待される。
論文概要

◎論文:
メタバースは解放をもたらすか?—改善論の立場から—
◎掲載誌:
科学基礎論学会 ジャーナル 科学基礎論研究 52 巻 (2025) 1-2 号
◎J-STAGE公開日:
2025/04/15
◎著者情報:
・山口大学 呉羽 真
・名古屋大学 久木田 水生
・東京大学 藤川 直也
メタバースの解放を巡る議論を検証
本論文は、メタバースが現実社会の抑圧的な文化や身体的な制約から人々を解放するという楽観的な見方がある一方で、そうではないとする悲観的な見方も存在する現状を捉えている。このような状況を踏まえ、単に賛否を表明するのではなく、「改良主義的(melioristic)」な視点から議論を展開し、メタバースの利用をより良い方向へと再設計することを目指している
論文ではまず、メタバースをコミュニケーション空間としての特性から分析し、続いて、ジェンダーステレオタイプや能力主義といった現実社会の望ましくない慣習がメタバースに持ち込まれているという悲観主義者の批判を紹介している。その上で、メタバースが抱えるこれらの課題を明確にし、その改善に向けた具体的な道筋を示すことで、今後のメタバースの健全な発展に貢献することを目指している。そして、指摘された問題は、メメタバースの技術的な側面とその運用方法の両面を再設計することによって解決が可能であると主張し、これらの課題に対する具体的な解決策を提示している。
多岐にわたる引用文献(一部抜粋)
本論文では、以下のような様々な分野の文献が引用されている。
- 井上智洋 2022. 『メタバースと経済の未来(文藝春秋)』
- 岩佐琢磨, まつゆう* 2022. 『VRChatガイドブック—ゼロからはじめるメタバース(双葉社)』
- 加藤直人 2022. 『メタバース—さよならアトムの時代(集英社)』
- 鳴海拓志, 畑田裕二 2022. 「バーチャルリアリティによる身体拡張と自己の変容」, 嶋田総太郎編『認知科学講座1 心と身体(東京大学出版会)』
- 難波優輝 2021. 「身体のないおしゃれ—バーチャルな「自己表現」の可能性とジェンダーをまとう倫理」, 『Vanitas』7: 91-105
- ねこます 2017. 「「かわいいは心のATフィールドを取り払う」「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」独占インタビュー(後編)」, 『PANORA: VIRTUAL REALITY JAPAN』
- バーチャル美少女ねむ 2022. 『メタバース進化論——仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界(技術評論社)』
- スイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナ 2022. 「要約「バ美肉 バーチャルパフォーマンスの背後にあるもの—テクノロジーと日本演劇を通じたジェンダー規範への抵抗」」, 池山草馬訳, 『現代思想』2022年9月号: 56-62
関連リンク
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